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俳句の庭

  • 南仏紀行(5)

    9月 2nd, 2025

    セザンヌが生まれ、生涯そこで過ごしたエクス・アン・プロヴァンスを訪れた。セザンヌが幾度となく描いたサント・ヴィクトワール山は、標高は千メートル余りのエクス近郊の石灰岩の山である。この山を描いたセザンヌの油彩画は44点、水彩画は43点に上るという。

    町の北東にシュヴァリエ展望台と呼ばれる小高い丘がある。セザンヌがサント・ヴィクトワール山を描くとき立ったとされる場所の一つ。私たちが葡萄畑や住宅街で道に迷いながら、jardin de peintres(画家たちの庭)という標識を見つけ、その丘に立ち寄ったとき、既に真昼の強い日差しが頭上から照り付けていた。

    暑さでやや霞んでいたが、絵で見た特徴的な山容が紛れもなく丘の上から望まれた。その日の暑さに参っていた私には、山肌の色の移ろいなどを時間をかけてじっくり観察する気力が残っていなかったのは、今から振り返ると残念だった。

    セザンヌの生家は、エクス・アン・プロヴァンスの街中にあった。内部は一般公開されていないので、私たちはその外観を見て通った。セザンヌが、ゴッホやゴーギャンとは違い、銀行家の父からの仕送りにより経済的な困窮を経験することなく絵を描き続けることができたことは知っていたが、エクスの中心街近くのオペラ通り沿いに残されているその家は、そのことを改めて実感させるような3階建ての石造りの邸宅だった。セザンヌの画風に、どこにも切羽詰まった感じがないのは、そのような境遇も関わりがあるのかも知れない。

    セザンヌはエクスで生まれ、エクスで生涯を過した画家である。だが、この度の旅行では、セザンヌの絵に触れる機会はほとんど無かった。地元のグラネ美術館や近隣の美術館に数点あるほか、セザンヌの多くの絵画はアメリカのフィラデルフィア美術館などの海外の美術館や個人コレクションに散逸してしまっているという。セザンヌが生前地元で評価されなかったことがその理由だろう。

    市がセザンヌを称える銅像(上の写真)を街の中心のロトンド広場に立てたのは、画家が亡くなった1906年から半世紀ほど経過した1959年。セザンヌの絵に対する世界的評価の高まりが地元を動かしたのだという。私たちが立ち寄った時、ステッキとスケッチ帳を持ったその銅像は、プラタナスの木蔭の外れに灼けて立っていた。世間の評価に関わりなく、自然の奥にある色と形の普遍的な秩序を探り続けた彼の不屈の魂をそこに見る思いがした。

    上の写真は、アビニョン市内のアングラドン美術館で目にすることができた唯一のセザンヌの油彩である。

  • 薊の絮

    9月 2nd, 2025

    薊(あざみ)はキク科アザミ属の総称。日本に自生している薊は150種ほどといわれる。トゲ状の縁の葉をつけ、堅い茎を持つ。春から秋にかけて紫色、ピンク、白の花を咲かせた後、タンポポのような絮(わた)を持った種をつける。単に「薊」といえば春季で、夏から秋にかけて咲く薊は、「夏薊」「秋薊」などとして詠まれる。「薊の絮」としては歳時記に掲載されていないが、「草の絮」一般が秋季であることから、秋の季語として詠めるように思う。

  • オルレア

    9月 2nd, 2025

    ヨーロッパ原産のセリ科の多年草。1990年代後半に、観賞用として日本に渡来したが、暑さに弱いため、日本では一年草として扱われる。初夏の頃、白いレースのような繊細な花を咲かせる。なお、歳時記には載っていない。

  • 上り月(のぼりづき)

    9月 2nd, 2025

    陰暦の朔(ついたち)から十五夜の満月に向かって、だんだんと満ちていく月のこと。「上弦の月」ともいう。月は三日月から上弦の半月へ、そして満月へと夜々膨らんでいく。月の満ち欠けは毎月繰り返されるが、特に秋の月に限っていう。

  • 秋澄むや空にもありぬ水の声 森潮

    9月 1st, 2025

    「秋澄む」は秋の澄んだ大気をいう。秋になると、大陸上空の乾燥した冷たい空気が流れ込むため、遠くまで澄みわたってくる。目に映るもの、耳に聞こえるものの音がなべて澄んで感じられる。

    掲句は、目に映るもの、耳に聞こえるものが澄んでくる秋ただ中にあって、空に「水の声」を聞き留めているとの句意。地上を流れ下る川の音とともに、空にも「水の声」がするとの感受には、秋たけなわの気分が溢れている。『俳句界』2025年9月号。

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