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俳句の庭

  • 芭蕉の推敲(11)

    10月 14th, 2023

    蛤に今日は売り勝つ若菜かな 芭蕉                            元禄6年歳旦の吟。真蹟懐紙に、「七草」との詞書を付して残されている。若菜が景気よく売れる江戸市中の風景。若菜は、正月7日の七草粥に入れる春の七草の総称。正月には吸い物などとしてもてはやされる蛤も、7日に限っては、若菜の売れ行きには敵わないというのだ。蛤は、芭蕉が住んでいた深川の名産でもあった。

    蒟蒻に今日は売り勝つ若菜哉 芭蕉                    『俳諧薦獅子集』には掲句のように改案されて収められた。初案、改案とも二物を比較している点では同様の着想だが、初案の「蛤」と「若菜」がいずれもハレの食材であるのに対し、改案の「蒟蒻」と「若菜」は対照的な食材であり、蒟蒻という食材のもつ庶民性・日常性が、若菜のもつ雅の印象を浮かび上がらせて効果的だ。蒟蒻は芭蕉の好物でもあった。市井の些事に情景を探った軽みの句。

  • 青葉木菟ことだま売りの老婆来る 鳥居真里子

    10月 14th, 2023

    青葉木菟はフクロウ科の夏鳥で、低山や神社の森などに飛来する。青葉の頃の夜、オスはホーホーと二声ずつ鳴く。

    掲句は幻想による作品だが、「ことだま売り」との措辞に思わず惹きつけられた。ことだま(言霊)は言葉が持つとされる霊力であり、詩歌に携わる人々は、私を含めて、日々自らが作る詩歌のもつ言霊を信じて言葉で何かを表現しようとしている。実際にこの世に「ことだま売りの老婆」がいて、言霊が手に入ればとの願いが、この句の幻想につながった。『俳句』2023年10月号。

  • 木犀(もくせい)

    10月 14th, 2023

    中国原産のモクセイ科の常緑小高木で、庭園や街路に植栽される。樹皮が動物のサイの皮膚に似ていることからこの名がある。仲秋の頃、葉のつけ根に小花を束状につける。花色には橙黄、白、淡黄色があり、それぞれ金木犀、銀木犀、薄黄木犀という。花は甘い香りを放ち、ジンチョウゲ、クチナシと合わせて、日本の三大芳香木の一つに数えられる。

  • 霧

    10月 14th, 2023

    水蒸気が地表や水面の近くで凝結して微小な水滴となり、視界を悪くする現象。気象学では水平視程が1キロ未満のものをいい、それより見通しのよいものは靄という。詩歌において、霧は、古くは四季を通じて用いられたが、平安時代以降は春立つものを霞、秋立つものを霧と呼び分けられるようになった。遠くのどかににたなびく霞に対して、霧には冷やかに立ちこめる印象がある。なお、靄は無季。

  • 岩峰もこんにやく玉もごつごつと

    10月 13th, 2023

    「こんにやく玉」は「蒟蒻掘る」(冬季)の傍題。コンニャクは傾斜の多い山間地で多く栽培される。初冬、畑の乾いた状態の時収穫する。掘り出した蒟蒻芋は蒟蒻玉ともいわれ、コンニャクの原料となる。

    掲句は初冬の頃、秩父の農産物直売所で見かけた蒟蒻玉に興趣を感じてできた一句。それは、たった今掘り出したばかりのように泥だらけで、ごつごつとした代物だった。近隣の人たちの中には、蒟蒻玉を買ったり、自ら栽培したりして自家製のコンニャクを作る人もいるのだ。本格的な冬が間近に迫り、武甲山の岩肌が眼前にそそり立っていた。平成28年作。

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