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俳句の庭

  • 廣瀬直人の一句(18)

    3月 5th, 2026

    一軒の藁家全き桃の花 直人

    「桃の花」は桜に少し遅れて咲く、鄙びた美しさを持つ花。多くは実を収穫するための花であり、その華やかさとは別に、地域の生活に根ざしている花でもある。

    掲句は藁家(わらや)の傍らに咲いている桃の花を詠む。藁家は藁で屋根を葺いた家のこと。藁葺きは、かつては農村でごく普通に見かける屋根だったが、高度成長期を経て姿を消していった。作者が見ているのは藁葺きの屋根が近隣から姿を消しつつある時期の一軒の藁家。「全き」との端的な一語に、古きよきもののもつ風格に惚れ惚れと目を注いでいる作者の姿が思われる。「桃の花」は、この句では、一軒の藁家のどっしりとした風格を引き立たせる役を果たしている。昭和55年作。『朝の川』所収。

  • 炉(ろ)

    3月 5th, 2026

    床の一部を切り、炭や薪を焚いて暖房や煮炊きを行う設備のこと。11月頃の「炉開き」から冬の間暖をとるために使われる。伝統的民家の板の間や土間に設けられる「炉」は「囲炉裏」ともいい、一家団欒の場所ともなる。天井から自在鉤を吊るして鍋をかけ煮炊きなどもする。また、茶道では、夏(5月頃~10月頃)は「風炉(ふろ)」を使い、冬(11月頃~4月頃)は「炉」を使うのが基本になっている。

  • 開帳(かいちょう)

    3月 5th, 2026

    寺院で普段閉ざされている厨子(ずし)を開き、秘仏や霊宝を公開して参拝者に拝ませること。「御開帳」ともいう。気候のよい春先に行われることが多い。また、「出開帳(でかいちょう)」は秘仏などを別の場所へ運び出して公開することで、江戸時代に庶民の娯楽や信仰の対象として盛んに行われた。

  • 廣瀬直人の一句(17)

    3月 4th, 2026

    道うるほへり桃の花したがへり 直人

    「桃の花」は桜より少し遅れて、3月下旬から4月上旬頃に淡紅色の花を咲かせ、春の訪れを告げる。明治の改暦以前は、雛祭に飾られる花であった。

    掲句は、作者の郷里の果樹園の桃の花を詠んだ作品。雨でしっとりと潤った道や四辺に溶け込むように咲いている桃の花が、本格的な春の到来を思わせる。「したがへり」との擬人化表現により、桃の花の優しさや豊かさが無理なく読者に伝わるところがいい。因みに、直人の既刊6句集に収められている桃の花の句は計30句。直人が愛着した句材の一つだった。この句はその中でも初期の秀作である。昭和46年。『帰路』所収。

  • 潮風にほどけて長き春ショール 鈴木沙恵子

    3月 4th, 2026

    「春ショール」は春先のまだ少し寒さが残る時期に、防寒やお洒落を兼ねて肩に羽織る、薄手のウールやシルク素材のショールのこと。冬の厚手のショールとは異なり、軽やかで明るい色彩が春の訪れを感じさせる。

    掲句は、潮風に解けて靡く「春ショール」を詠む。春になって日差しの力は増したが、依然として冷たい風が吹いている砂浜を想像したい。折からの風で肩を包んでいる「春ショール」が飛ばされそうになるのを手で押さえているのだろう。「春ショール」は、惜し気もなく周りに明るい春の色合いを撒き散らしているのだ。『俳句界』2026年3月号。

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