「花見」は、桜の花を愛でながら、春の訪れを寿ぐ古くからの日本のならわし。独りで花を眺めることもあるが、多くの人が飲食をともにしながら花見を楽しむことも多い。夜の花見は「夜桜(見物)」といい、季語として別に立てられている。
掲句は、桜どきに晴れわたった空を仰いでの幻想の作品。春がたけなわになると、青空といっても、空には絶えず薄雲がかかり、濃淡をなしている。作者は雲が白砂のように吹き溜まっているところを、「空の渚」といった。渚に沿って作者を乗せた「花見舟」がすすんでゆく。作者が薫陶を受けた故大岡信をはじめ、今は天上に棲む亡き人の誰彼にも、舟の上では相見(まみ)えることができるのだろう。『俳壇』4月号より。

