令和2年に刊行された『廣瀬直人全句集』に収められている諸作品から、折々の感銘句を取り上げ、読み味わっていきたい。
一月一日山に鳶雲に鳶 直人
一月一日は「元日」。一年の始めの日である。その日の朝に限定するときは、「元旦」「大旦」などともいう。門松や鏡餅を飾り、屠蘇を酌み、雑煮を食べて祝う。 また、「正月」といえば、新年を祝う行事や華やいだ雰囲気をイメージする。
掲句は、「元日」「元旦」「年新た」などの既存の季語を敢えて用いずに、「一月一日」と何の飾り気もなく表現した作品。「一月一日」の8音を上に据えた8・5・5の破調の句だが、一読新鮮な味わいがある。新年を迎えた作者の決意が読む者に静かに伝わってくる。正月の華やぎを極力排除した独り心の作品であり、作者の目は鳶の舞う元日の空に向けられている。龍太の代表作〈春の鳶寄りわかれては高みつゝ〉で詠まれた鳶を通して、師弟の詩心が呼び交わす。作者晩年の絶唱といっていいだろう。直人はこの年の1月14日に病に倒れ、再び句作の筆を執ることができなかった。最後の句集『風の空』以降に発表された作品である。平成24年作。