「樏(かんじき)」は、雪深い道や野を歩くとき、足の埋没を防ぐために雪沓の下に履くもの。雪国の生活道具である。
掲句は、「湖国」への旅吟。「湖国」は琵琶湖を擁する滋賀県のこと。旅中に目に触れた景物の中で、干してある「樏」だけに焦点を絞ったところに、詩眼の冴えが見える。行きずりの道沿いの人家に「樏」が2足干してあったという、ただそれだけの簡潔な描写から、琵琶湖の北岸地域での、雪深い夫婦二人の慎ましい生活ぶりが浮かび上がってくる。『俳句四季』2026年3月号。
「樏(かんじき)」は、雪深い道や野を歩くとき、足の埋没を防ぐために雪沓の下に履くもの。雪国の生活道具である。
掲句は、「湖国」への旅吟。「湖国」は琵琶湖を擁する滋賀県のこと。旅中に目に触れた景物の中で、干してある「樏」だけに焦点を絞ったところに、詩眼の冴えが見える。行きずりの道沿いの人家に「樏」が2足干してあったという、ただそれだけの簡潔な描写から、琵琶湖の北岸地域での、雪深い夫婦二人の慎ましい生活ぶりが浮かび上がってくる。『俳句四季』2026年3月号。
「春風」は春に吹く暖かく穏やかな風のこと。草木の芽を育み、鳥などの生き物の活動を活発にする。
掲句は「春風」とすれ違った作者が、ふり返ってその行方を眺めていると詠む。風は目に定かに見えるものではないが、確かに今すれ違ったのは「春風」の感触だった。五体に受けた風に春の感触を感じ取った作者は、その一瞬の感受を、自らの何気ない動作に即して表現したのだ。「寒風」や「北風」では、ふり返る余裕は生まれない。『俳句四季』2026年3月号。
「蟲出づ」は「地虫穴を出づ」(春季)の傍題と考えていいだろう。春、土中に冬眠していた虫が穴から出てくる。虫と言っても、アリなどの昆虫に限らず、カエルやヘビなど冬の間土中に眠る様々な生き物が含まれる。「蟲」は「虫」の旧字体で、小さな生き物が集まっているイメージがある。
掲句は、春になって穴から地上に出てくる虫たちが、みな目を炯炯(けいけい)と眒(みひら)いていると詠む。炯炯は目などが鋭く光る様。地上に出てきたどの虫も、外敵をいち早く察知し、また、獲物を捕らえるために目を光らせているのだ。作者が想像した虫たちの姿だが、一読、さもありなんと思う。ひと度地上に出た虫たちには、弱肉強食の修羅の現実世界が待っているのだ。地上に現れた昆虫などの、黒々と漆びかりのする目が見えてくる。『俳壇』2026年3月号。
「チューリップ」はユリ科の多年草。オランダで品種改良され、江戸末期に日本に伝わった。4月頃に花壇を彩るポピュラーな花であり、赤、白、黄、紫などの色がある。
掲句は、子供に立ち返ってチューリップを詠んだ作品。植え付けてから咲くまでの数カ月、チューリップの生長を見守っている子供たち。それぞれ好きな色があり、この子は赤いチューリップが好きだという。ところが実際に咲いたのは黄色だった。チューリップの色などは大人には些事に過ぎないが、子供にとっては重大事なのだ。その子はさぞがっかりしたことだろう。そんな童心にモチーフを求めたところが、この句の味わい。『俳壇』2026年3月号。
「師走(しわす)」は本来は陰暦十二月の異称。実際には陽暦十二月の意味で用いられることが多く、年末の忙しさを感じさせる言葉だが、「師走空(しわすぞら)」といえば、忙しない中でも空を仰ぐ心のゆとりや独り心を感じさせる。
掲句は「師走空」の色合いに焦点を絞った作品。〈うすうすと紺のぼりたる師走空 龍太〉では「師走空」の紺のグラデーションが見えてくるが、この句は、「師走空」がしんしんと「縹(はなだ)」を流していると詠んだ。「縹」は平安時代から続く色名で、藍色より薄く、浅葱色(あさぎいろ)より濃い、ややくすんだ青色のこと。年の瀬の空の含むかすかな潤いを表現したものと見たい。「しんしんと」の擬態語は、平穏な「師走空」の形容であるとともに、年の瀬の忙しなさの中での作者の独り心を映し出しているようだ。『俳壇』2026年3月。