「春暁(しゅんぎょう)」は春の夜明けのこと。「暁(あかつき)」は日の出前の未明をいい、夜の明ける気配はあるものの、辺りはまだ薄暗い時間帯。
掲句は「甲斐(かい)」という山梨の旧国名を用いて、作者の定住する故郷を詠んだ作品。江戸時代後期の『甲斐国志』で、「本州九筋ヨリ他州ヘ達する道路九条アリ皆路首ヲ酒折ニ起ス」と記述され、甲府市の酒折宮を起点に、外部へ甲斐路、青梅街道、秩父往還道など9つの古道が延びているという。「九筋(くすじ)の古道」のいずれもが甲斐の国から出てゆくという捉え方の根底には、八方が山に囲まれた甲府盆地に定住する人の感性がある。「春暁」という無色透明な季語が、作者の大柄な把握を生かしている。『俳句界』2025年9月号。