桜は品種によって、花芽と葉芽のほぐれる順番が異なる。最もポピュラーなソメイヨシノは、花が咲き終わった後葉芽が一気にほぐれてゆく。山桜は、花芽と葉芽とがほぼ同時にうごきだす。
掲句から思い浮かぶのは、花芽を沢山つけたソメイヨシノの老木だ。ふとぶとと年数を経たソメイヨシノの老木が、折りからの雨を含んで黒々と濡れて立っている。木末には夥しい蕾が、咲く寸前の瑞々しい紅色を零さんばかり。「芯まで濡れて」との措辞は、表面的な写生では至り得ない作者の深い観照の賜だ。写生を超えたところで、老木の桜の命の在りようを掴んでいる。句集『深紅』所収。2019年作。