夏の山野をおおう草木の満目の緑をいう。「茂」よりも広範囲な情景である。王安石の「万緑叢中紅一点、動人春色 不須多」という詩の中の「万緑」を用いて、中村草田男が〈万緑の中や吾子の歯生え初むる〉と詠んでから、この言葉が多くの共感をよび、季語として定着するようになった。この漢語のもつ力強さには、自然讃仰の響きがある。

夏の山野をおおう草木の満目の緑をいう。「茂」よりも広範囲な情景である。王安石の「万緑叢中紅一点、動人春色 不須多」という詩の中の「万緑」を用いて、中村草田男が〈万緑の中や吾子の歯生え初むる〉と詠んでから、この言葉が多くの共感をよび、季語として定着するようになった。この漢語のもつ力強さには、自然讃仰の響きがある。

「熱帯夜」は最低気温が25度を越える夜をいう。気象庁の定義では「夕方から翌朝までの最低気温が25度を超える日」。近年の真夏は熱帯夜が常態化して寝苦しい。
もともとは気象学者の造語だった「熱帯夜」が初めて歳時記に掲載されたのは、平成8年角川書店刊行の『俳句歳時記(第三版)』。この頃季語として事実上定着したとされる。
暑さを表現する従来の季語には「極暑」「溽暑」「炎暑」などがあるが、温暖化が進行し、ヒートアイランド化する日本の夏の夜を実感させる言葉として、この言葉が定着してきたのだろう。手元の歳時記にも、
まつくらな中に階段熱帯夜 吉田汀史
など生活実感に根差した例句が掲載されている。現在人の感覚にマッチした季語として、今後も詠まれていくと思われる。
南ヨーロッパ原産のキョウチクトウ科の常緑多年草。観賞用に栽培されるほか、一部が野生化している。晩春から初夏にかけて、紫色のプロペラ状の五弁花を蔓状に伸びた茎の先につける。マダガスカル島原産の「日日草」(夏季)よりも花期が早い。歳時記には掲載されていない。

草木に花が咲き、鳥が囀る季節。桜が散り花見の賑わいが治まると、いつしか春も深まり、夏が近づいてくる。学校や会社では入学、入社という社会生活の新しい出発の時でもある。自然も人も活気に満ちて来る頃である。

「躑躅(つつじ)」はツツジ科ツツジ属の常緑又は落葉低木の総称。ヤマツツジ、レンゲツツジなどが山野に自生するほか、庭や公園、街路などに多数の園芸品種が植えられる。晩春から初夏にかけて、色とりどりの花を咲かせる。
掲句の対象は、標高1500メートルほどの山中に咲くレンゲツツジ。花期は6月上旬頃。その頃の空合は変わりやすく、薄日が差したかと思うと、ぱらぱらと雨が通り過ぎる。「腐(くた)す」の語は、その頃のしとしと雨に傷んで溶けていくような自生の躑躅の印象を表現しようと思って使った。丁度新緑の頃で、初々しい緑が野山に満ちていた。平成19年作。『春霙』所収。