「摘草」は、春、野に出て蓬、芹、土筆、蒲公英などを摘むこと。「野遊」「踏青」などと並んで、春の季語になっている。食材として、蓬や土筆を摘む機会は、一般的には減ってしまったが、屋外で春の解放感を満喫することができる。取り立てて目的もなく、地面に萌え出たばかりの蓬を摘んで、やわらかな風の中で指についた匂いを嗅ぐ。佳き季節の到来を実感する一瞬だ。
かつて気ままに「摘草」をした時のことを思い浮かべながら、掲句を最初にノートに書き留めたときは、別の山の名だった。ある時ふと思い付いて「武甲山」(ぶこう)に書き替えた。「武甲山」は埼玉県秩父地方の山で、秩父盆地の南側に聳つ。身近にあるこの山に対する愛着が、この句の根っこにあるのかも知れない。「郭公」の井上主宰には、「その地に暮らす人の意志的な思いが籠められているだろう。」と鑑賞していただいた。令和3年作。