一歩づつ花野となつてゆくところ 山口遼也

「花野」は、萩、桔梗、吾亦紅、女郎花などの秋の草花が、広々とした野原に色とりどりに咲き乱れている景色をいう。春の花が爛漫と咲き誇る華やかさに対して、「花野」は華やぎの中にどこか寂しさやもののあわれを伴う。

掲句は、歩を進めるにつれて野の草花が増えて「花野」になっていくと詠む。「花野」といえば平安時代に既に歌人たちに用いられていた美しい言葉だが、実際は「花野」とそうでない只の野原とが、截然と区別できるものではない。作者は、自らの目に触れるそんな「花野」を、実感するまま在りのままに詠んだ。思い込みや理想化を排して、実感をベースに言葉に向かい合おうとする姿勢が、この句に新しさをもたらしている。現実世界と言葉の世界が触れ合うところに詩(うた)が生まれるというのは、今も昔も変わらない。『俳句』2026年11月号。


コメントをどうぞ