「虫の闇」は草むらなどから、コオロギ、カネタタキ、クサヒバリなど無数の虫の声がしきりに聞こえてくる秋の夜の暗闇のこと。夜、無数の虫の声が響きわたるとき、闇の深さや静けさが深まる感じがする。
掲句は、野中や庭園などに立ち止まって「虫の闇」に包まれていると、自分の手足が溶けていくように感じられたとの句意。対象に同化する繊細な身体感覚である。成虫になって1~2か月の寿命の虫たちの中にいて、自らの存在の儚さ、頼りなさを思っているのだ。確かに、地球上生物としての虫と人とは、ほんの一時期の限りある命という点では、さして違いのあるものではない。『俳句』2026年11月号。