廣瀬直人の俳句(89)

風呂吹や闇一塊の甲斐の国 直人

「風呂吹(ふろふき)」は厚切りにして柔らかく煮た大根や蕪に、熱い練り味噌をのせて食べる料理。熱い大根に息を吹きかけながら食べる様子からその名がついたとも。寒さの厳しい冬に体を温めてくれる食卓の一品。

掲句は「風呂吹」を食べながら、自らが定住する「甲斐の国」を思っての作品。「甲斐の国」は古くからある旧国名の一つで、現在の山梨県にほぼ相当する。戦国時代には武田氏の本拠地。作者は、冬の到来を感じさせる大根の素朴な料理を前に、故郷甲斐の経てきた分厚い歴史や風土の重みに思いを馳せている。「闇一塊の」は、闇に包まれて見えなくなった山々の聳つ辺りに目を注いでいての措辞だろう。定住する故郷に対する誇りと諦念の入り混じった思いも感じられる。『遍照』所収。

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