歳晩の裾を一気に八ヶ嶽 直人
「歳晩(さいばん)」は一年の終わり、特に12月の末頃を指す。「年の瀬」「年の暮」などともいうが、これらの言葉が持つ世俗的な慌ただしさに対し、「歳晩」は漢語特有の格調高い響きがあり、静けさや厳粛さ、過ぎ去る時間への深い感慨を含む。
掲句は、12月も押し詰まり年が終わろうとする頃、「八ヶ嶽」の裾の稜線に目を止めての作品。「八ヶ嶽」といえば、甲斐駒や富士とともに、作者の故郷を取り巻く代表的な山。「裾を一気に」延ばしてそこにどっしりと据わる山容は、この山独自の風趣である。年の終りに際し、独り故郷の西北に座す「八ヶ嶽」に向かう作者の心静かな時間が思われる。昭和54年作。『朝の川』所収。