夕凍みの聳ゆる暗さ甲斐の国 直人
「夕凍み(ゆうじみ)」は、冬の寒さが夕暮れ時にますます厳しくなり、水や地面、空気などが凍りつくような、又は冷え込んで引き締まるような様をいう。日没の夕暮れにかけて、一段と冷え込みが増してあたりが凍りついたり、張りつめた寒さに包まれたりする。「凍る」の傍題。
掲句は、作者が定住する真冬の「甲斐の国」を詠んだ作品。甲府盆地の冬は寒さが厳しい。四囲の山から冷たい空気が盆地の底へ流れ込み、いったん流れ込んだ冷気は盆地の底に溜まって逃げ場がないためと言われる。故郷特有のその手強い寒さを、作者は、「夕凍み」が、八方の山々のように暗く聳え立っていると感受した。「夕凍み」は、そこに住む者には避けられない山国の風土の一面であり、他方では、寒暖差の激しい気候が葡萄などの果樹栽培に適しているというメリットもある。それやこれやを含めて受け入れるのが、故郷に定住・土着するということ。昭和51年作。『日の鳥』所収。