火の粒のやうに師走の母がゐる 直人
「師走(しわす)」は陰暦12月の異称。師(僧侶・お坊さん)が、年末の仏事や法要で東西を忙しく走り回る月であることから転じたとされる。現代では、陽暦の12月(年末・年の瀬)の慌ただしさや季節感を表現する言葉として広く使われる。
掲句は、師走の母を「火の粒」に譬えた作品。当時作者は40代半ばの壮年期で、母堂もまだまだ動ける年頃だったのだろう。この比喩により、正月を前にしててきぱきと家の中を切り盛りする老母と、その姿を見守る作者の優しい眼差しが見えてくる。本格的な冬が訪れようとしている「師走」の季節感の中で、生き生きと立ち働く母の姿が浮かび上がる。昭和49年作。『日の鳥』所収。