雁渡し甲斐にくまなき山の襞 直人
「雁渡し」は仲秋から晩秋にかけて、日本に渡ってくる雁の群れを送り届けるように吹く北風のこと。もともとは伊豆や伊勢の漁師の間で使われていた方言が、俳句の季語として定着したもの。「雁渡し」が吹き始めると朝晩の冷え込みが一段と厳しくなり、本格的な秋の訪れと、その先に控える冬の気配を感じさせる。
掲句は、本格的な秋が訪れた甲斐の山々を詠む。「くまなき」は影や曇りがない意で、四囲の山々の襞がくっきりと澄んで見わたされる様を言ったもの。折から「雁渡し」が吹いて、山国の秋は急速に深まっていく。自身が定住土着する甲斐の山々を詠んだ国誉めの一句と言っていいだろう。平成22年作。『風の空』以降。