廣瀬直人の俳句(73)

ありありと欅遥けき九月かな 直人

九月は仲秋に当たり、日中はまだ暑さが残るものの、朝夕には涼しさが感じられる。名月や虫の音など本格的な秋の到来を実感する季節。

掲句には、「偲ぶこころを」との前書きがある。この年の2月25日に亡くなった師・飯田龍太を偲んでの作。「ありありと」は、実際に目の前で見ているかのように、鮮やかにはっきりと心に思い描くさま。作者が思い描いているのは、かつて「雲母」の編集のために毎月通った山廬の欅であろう。「遥けき」は、師の句業に対する畏敬の思いに加えて、師と過ごした歳月の遥けさが胸中にあっての感懐。逝去から半年余り経て、作者の身辺はようやく落ち着きを取り戻しているのだ。「九月」という季語がいぶし銀のように利いている。平成19年作。『風の空』所収。

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