葛の花水嵩は音失へり 直人
「葛(くず)」は日当たりのよい山野や荒地に自生するマメ科の蔓性植物。初秋の頃、赤紫色の小さな花を穂状に咲かせ、甘い香りを放つ。
掲句は、葛の花が咲く頃の、豊富な水量の流れを詠む。「水嵩は音失へり」との把握には、自然に対する深い観照の眼差しがある。ひと雨降った後の満々と水量を増した川は、却って音を立てないで流れていくというのだ。豊かな水量のゆったりとした流れに、時折咲きこぼれる葛の花びら。人界を離れ、自然のみに目を向けた完結した一句の世界である。平成16年作。『風の空』所収。