酒温めん余生とはいつのこと 直人
「温め酒(あたためざけ、ぬくめざけ)」は肌寒くなり始める晩秋の頃、無病息災を願って温めるお酒。旧暦9月9日の重陽の節句に、酒を温めて飲むと病気にかからないという中国からの言い伝えに由来する言葉。
掲句は、秋の深まる気配を感じながら、余生と言われる年齢にさしかかった自身の日常を省みての作品。選句、作句、執筆等で多忙な中、好きな酒を嗜むのは、夕餉前後のごく限られた時間だったのだろう。果たして、余生と言われるようなゆったりと過ごす日々が、自分に訪れるだろうかと自問しているのだ。句の鑑賞としては以上のとおりだが、平成24年1月に病に倒れてから30年3月に亡くなるまで6年間が、作者にとって図らずも訪れた余生だったのだと思う。その間、少しはゆったりと余生を愉しまれたのだと思うことにしたい。平成14年作。『風の空』所収。