線香の灰に線香立てて秋 直人
「秋」は、暑い夏を乗り越えて冬へ向かう間のほっとできる過ごしやすい季節。残暑厳しい8月も、肌寒さを覚える10月も秋だが、基本的には爽やかで心地よい季節である。空気も水も澄み渡り、山々の紅葉がすすむ。
掲句は、仏壇に線香を供えたところを詠む。秋彼岸など改まった思いで仏前に座る場面を想像するのもいいが、日常の一コマであろう。毎日の焼香によって線香の灰が香炉の中に溜まっていく、その灰の中にその日も線香を立てたというのだ。「秋」と末尾に置いたところには、いつしか秋になっていることに気づいた作者の軽い驚きと安堵の思いがある。日常の中に秋の到来を感じ取った一句。平成5年作。『遍照』所収。