廣瀬直人の俳句(64)

馬追ひが闇抜けて来し羽たたむ 直人

「馬追(ひ)」はキリギリス科の昆虫。「スイッチョン」と聞こえる鳴き声が馬子(うまご)が馬を追う声に似ていることからこの名がある。7月頃から鳴き始め、盛んに鳴くのは初秋の頃。昼間は草むらに隠れており、夜になると活発に動き回って鳴き始める。夜間に街灯や民家の照明などに引き寄せられてやってくることも多い。

掲句は、灯火に引き寄せられて姿を現した「馬追」を詠む。既に暮れきった初秋の闇を抜けて、一匹の「馬追」が作者の身辺に飛来したのだ。「闇抜けて来し羽たたむ」との措辞は、その生き物にじっと目を注いでいなければ得られない表現であり、飛んできた「馬追」がその美しい薄緑色の薄羽を畳んだ様が見えてくる。家居の作者の、夏の暑さから解放された安堵の思いも感じられる。昭和59年作。『朝の川』所収。

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