一人去りまた一人来て大文字 田中春生

毎年8月16日の夜、京都の盂蘭盆会(うらぼんえ)の締めくくりとして行われる京都五山送り火のうち、東山如意が岳中腹に灯る「大文字」の火をいう。お盆に迎えた先祖の霊(精霊)を再びあの世へと送る仏教的な行事。「大文字」に続いて北や西の山々に「妙」、「法」、「船形」、「左大文字」、「鳥居形」と次々に点火され、京都の夜空に浮かび上がる。

掲句は観光で訪れたというよりも、地元の人たちの当日の落ち着いた雰囲気が感じられる作品。マンションの廊下、近所の路地などにふらっと出向いて、中腹の送り火を静かに見守っているのだ。毎年見慣れた恒例の行事であり、燃え落ちるまでの30分ほどの間に、そのスポットを訪れる人もあり、自宅に戻る人もいる。単純化された措辞から、送り火を見守る洛中の人々の思いが伝わってくる。『俳壇』2026年9月号。


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