稲稔りゆつくり曇る山の国 直人
稲が黄金色に熟し、垂れて風に揺れる姿は、古くからの日本の原風景。日本人の主食である米をとるため、縄文時代後期から栽培されて来た。
掲句は、一面に稔りのときを迎えた山国の稲田を詠む。「山の国」といえば、作者の住む山梨もその一つ。四囲を山に囲まれた盆地の空に、どこからともなくゆっくりと雲が溜まり、厚みを加えてゆく。「山の国」は時間の経過が緩やかで、土着者として作者の過ごす時間もゆっくりと過ぎてゆく。「ゆつくり」は作者の俳人としての歩みでもあった。急くことなく、他と比較することもなく、自らの信じる道をゆっくりと着実に歩み続けた。何の奇もない平明な句だが、作者の体温が感じられる作品の一つ。昭和47年作。『日の鳥』所収。