「郁子(むべ)」は、アケビ科の常緑蔓性木本。晩春から初夏にかけて、下向きのベル状の白い花を咲かせ、秋には熟しても裂けない卵型の果実をつける。
掲句は「ぎんねずの雨」の降る中、暮れていく郁子の花を詠む。「銀鼠(ぎんねず)」は、銀色のようなほんのりとした青みを含んだ明るい灰色。日本人の繊細な色彩感覚を思わせる伝統色の一つ。暮れかかっても中々暮れない晩春の夕暮れ、ほんのりとした暮色の中を降り続ける雨を、作者は「ぎんねずの雨」と表現した。雨に濡れながら白々と暮れ残る郁子の花が、夕暮れどきの深沈とした情感とともに見えてくる。『俳句四季』2026年6月号。