廣瀬直人の一句(47) 

父は遠くの畠にありし油蟬 直人

「油蟬(あぶらぜみ)」は日本で最も身近なセミの一つ。夏の暑い盛りに、ジリジリ、ジージと油を揚げているような音で鳴く。「蟬」の傍題。

掲句は、前年に亡くなった父を追想しての作品。現に耳に聞こえている油蟬の声が、健在だった頃の父の面影を誘い出したのだ。と言っても、その父は眼前にいるのではなく、いつも遠い畠で農事に精を出している人として、作者の胸に浮んできた。喧しく鳴きたてる油蟬の声が、父とともに流れた静謐な歳月を呼び戻す。昭和46年作。『帰路』所収。 

,

コメントを残す