心よりと書いて秋深しと思う 池田澄子

「秋深し」は、秋が深まり、朝晩の冷え込みが増して、冬の訪れを予感させる時期の寂寥感(せきりょうかん)や静けさを表す言葉。実りの秋が終わる名残惜しさと冬へ向かう静寂とが入り混じる。

掲句は、手紙などに「心より」と記したとき、ことさら秋の深まりを感じたとの句意。「心より」「衷心より」などは、真実な気持ちや深い感謝、お詫び、祈りなどを伝えるため、改まった手紙や弔辞、フォーマルな挨拶などでよく用いられる言葉。しかし、その表現が形式化して、実意が伴わないことの方が多い。否応なく形式と本音を使い分けて生きていかなければならない人という生き物の宿命だろうか。形式化した言葉の虚しさと、その中で生きていく人の哀しさを、作者は感じ取っている。『俳句』2026年5月号。


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