ゆらさねばゆれぬ揺り椅子春うれひ 藤田直子

「春愁(しゅんしゅう)」「春愁ひ(はるうれい)」は、春の華やぎとは裏腹に、なんとなく気がふさいで物憂い気分をいう。春ならではの気だるさ、気分の曇りである。

掲句は、揺り椅子に腰かけて、漠然と春の物憂い気分に浸っていると詠む。揺り椅子(ロッキングチェア)は、心地よい揺れが心身をリラックスさせてくれるが、ブランコなどと同様、自分で程よく揺らして用いるもの。「ゆらさねばゆれぬ揺り椅子」は当たり前のことを言っているのだが、ユラ・ユル・ユリのリフレインが、心地よいリズムとなって、その時の作者の気分の揺蕩い(たゆたい)を表しているようだ。俳句が佳句、秀作になるかどうかは、意味よりも韻律が決め手になることを、この句は教えてくれる。『俳壇』2026年5月号。


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