「冴返る」は、立春を過ぎてようやく春めいた頃、再びぶり返す寒さのこと。「余寒」「春寒」など同種の季語はあるが、より感覚的な表現。
掲句は東京の憲政記念館に展示されていた1個の銃弾の印象が契機になった作品。それは、1909年10月26日にハルビン駅頭で起きた伊藤博文暗殺事件で放たれた銃弾の一つだった。ハルビン駅のホームに降り立った伊藤が、ロシア要人らと握手を交わしていところ、群衆を装って接近した韓国の独立運動家が伊藤をめがけて拳銃を放ったのだ。展示されていたのは小指の先ほどの銃弾だったが、私はしばらくそれから目を離すことができなかった。平成23年作。