春の山が、いかにも春の山らしい装いとなるのは、仲春以降だろう。初春の頃にも、いち早く囀る四十雀など、春の気配はそこここに表れているのだが、木の芽がほぐれながら、日差しを遮ることもない明るい山中には、春が満ち溢れている。百千鳥の鳴き声に、キツツキの幹を叩く音。近くの藪で不意に鳴き始めた小綬鶏の声。木五倍子が咲き、山茱萸が咲き、山吹が咲く。冬の間とは打って変わって、人にやさしく触れていく風の感触も、春そのものだ。
春が深まるにつれて、山中は葉を広げる木々に遮られて暗くなっていく。諸鳥の声にも、営巣の初期のような賑やかさは無くなって、落ち着いてくる。そこここに夏の兆しが表れてくるのも、その頃だ。
