「桜東風」は、桜が咲く頃に吹く東寄りの風のこと。この時季、気温のアップダウンはあるが、肌に触れてくる風の柔らかい感触はやはり春のものだ。そして、どこを歩いても、間近に、また、遠方に咲く桜が目に入らない場所はない。風そのものが、桜の明るさを帯びているようにも思える。
掲句は、母に付き添って病院に連れて行ったときの作品。日頃は妻が付き添うのだが、その日はたまたま私が病院まで一緒に歩いて行った。手をつなぐのは照れ臭かったので、私が前を歩き、ときどき遅れてくる母を振り返った。途中満開の桜が、やや強めの風に花びらを飛ばしていた。その時は、半年後、母がこの世を去るとは、思ってもみなかった。平成31年作。

