「鷭(ばん)」はツル目クイナ科の鳥。全国の水田、湿原、湖沼などの草の茂った水辺に繁殖し、水辺の植物の種子や昆虫等を餌としている。留鳥だが、北国に棲息しているものは、冬季、関東以西の温暖な地方へ移動する。
掲句は石神井公園の三宝寺池で鷭の幼鳥を眺めていての作。鷭の幼鳥は巣立った後も遠くへは行かず、巣の近くの水草を伝って餌を求めて歩き回る。幼鳥はからだの羽毛がうすい褐色で、親鳥とすぐ見分けがつくが、逞しい二本の脚だけは一人前だ。眺めているうちに、鷭の子が私の胸中を覗きに来るような錯覚に囚われた。独り心から生まれた空想の一句。令和元年作。