しみじみと大樹ありけり更衣 直人
「更衣(ころもがえ)」は、夏になって冬服から夏服へ衣類を替えること。旧暦4月1日に宮中で行われていた儀式に由来する。秋(10月〜11月頃)の冬物への衣替えは「後の更衣」という。
掲句は、夏服に替えて身も心も軽くなり、身近にある大樹に改めて親しみを感じているとの句意。「しみじみ」は深く心に沁みて感ずることで、作者と大樹との深い縁を感じさせる措辞。故郷の地に根づき、作者と風土をともにする大樹への共感の思いが感じられる。昭和56年作。『朝の川』所収。
しみじみと大樹ありけり更衣 直人
「更衣(ころもがえ)」は、夏になって冬服から夏服へ衣類を替えること。旧暦4月1日に宮中で行われていた儀式に由来する。秋(10月〜11月頃)の冬物への衣替えは「後の更衣」という。
掲句は、夏服に替えて身も心も軽くなり、身近にある大樹に改めて親しみを感じているとの句意。「しみじみ」は深く心に沁みて感ずることで、作者と大樹との深い縁を感じさせる措辞。故郷の地に根づき、作者と風土をともにする大樹への共感の思いが感じられる。昭和56年作。『朝の川』所収。
天上に常の風筋袋掛 直人
「袋掛(ふくろかけ)」は、梨、桃、林檎、葡萄などの果実に、害虫や鳥、病気から守るための紙袋をかぶせる作業。果樹により時期は異なるが、おおむね5月上旬〜6月上旬頃にかけて行われる。
掲句は、葡萄や桃の袋掛け作業をしているとき、ふと頭上の空に「常の風筋」が仰がれたとの句意。夏の甲府盆地上空を吹き抜ける風には、 南西方向の南アルプスから山を越えて吹き下りる風や駿河湾から富士川に沿って南から北(盆地)へ吹く風があり、この句の「風筋」がそのどちらなのかは定かでないが、いずれにしても、その地に定住する作者が知り尽くしている風が、頭上の青空を吹き抜けているのだ。揺るぎのない土着の目が捉えた「風筋」である。昭和54年作。『朝の川』所収。
言葉待ちつつ涼しさの中にゐる 直人
「涼し」は夏の暑さの最中に思いがけず覚える心地よい涼しさのこと。暑いからこそ、ひと筋の涼気を一層ありがたく感じる。
掲句には「北海道雲母の会(三句)」との前書きがある。普段は誌上でのつながりしかない「雲母」の会員たちとの交友を深める場である。初対面の会員たちと、旧知の仲のような親しみを覚えて言葉を交わしている作者の姿が彷彿する。俳縁を通じた交友の涼しさが、さらりと表現されていて、捨て難い味わいがある。昭和52年作。『朝の川』所収。
昼間見し田のひしひしと冷奴 直人
「冷奴(ひややっこ)」は、冷やした豆腐に生姜や葱などの薬味をのせて食べる庶民的な夏料理の一つ。見た目にも涼味を感じる素朴で手軽な一品。
掲句は、夕餉に冷奴を食べながら、昼間見た青田の光景が「ひしひし」と作者の眼裏に残っているとの句意。この句は、作者が『自作ノート』で「(塩田平は)寺から寺への間はほとんどが稲田で、時期は八月だったから日盛りの青さは格別に目に沁みた。」と記しているように、信濃旅吟の中の一句。穂を孕む前の稲の命の力が、「ひしひし」との擬態語によりよく表れている。昭和51年作。『日の鳥』所収。
赤子眠りて繭臭き灯に染まる 直人
「繭」は蚕の作る繭のことで、特に春蚕の作った繭を指す。絹の原料になる。養蚕農家は、生繭を日に干したり、糸をとるために繭を煮るたりするなど、多忙を極める。
掲句は、「繭臭き灯」が、養蚕農家の繁忙期を彷彿させる作品。家人の目のとどくところに、赤子を眠らせているのだ。繭を煮る生臭い臭いの中に、蚕室の灯が夜遅くまでともり、そこに寝かされている赤子をも染めている。「繭臭き」との措辞を見出したのは、土着者の感性。昭和50年作。『日の鳥』所収。