末黒野を風押してくる在所かな 直人
「末黒野(すぐろの)」は野焼きが終わり、草木が焼けて黒々となった野原のこと。草木が芽吹く前の、黒々と焼け焦げた寂しい風景だが、どことなく生命の息吹が感じられる。
掲句は、春先の野焼きが終わった後の在所を詠んだ作品。「在所」は生まれ育った故郷のこと。誰にもある生家、実家というもののもつ懐かしさ、暖かさが感じられる言葉だ。作者に即して観賞すれば、野焼きが終わった後の日川(にっかわ)の河川敷を、冷たい八ヶ岳颪が吹き荒んでいるのだ。春になったといっても、甲府盆地の北西風は衰えることを知らない。「押してくる」は、そうした風土の手強さを身体全体で受け止めての言葉だろう。平成11年作。『矢竹』所収。