フランス紀行Ⅱ(15)

フランスでは、一ケ月余りの間に、パリ近郊、ノルマンディ、ブルターニュなどの5か所のホテルを転々とした。その間オーナさんら人との出会いもあったが、動物たちとの出会いも忘れられない。

ノルマンディのホテルで、いつも夕刻になると戸口に挨拶に来たテリア系のワンちゃん。オーナー一家の生活のリズムもあってか、いつも午後7時過ぎの定刻に戸口に現れた。私たちは夕食の時間で、窓ガラス越しにワンちゃんに声をかけた。焼き物やスープの匂いを嗅ぎつけて来ていたのかも知れない。

ここのオーナーは、広大な敷地を利用して競走馬や乗馬用の馬のブリーダーを生業としている人たちだった。ヨシダと名乗る日本人が遥々馬を買い付けに来たこともあったという。朝、目覚めると窓から馬の姿が見え、窓を開けると干草の香りに包まれた。干草の中に、香りの高いハーブ系の草が混じっているのだろう。

次の写真は私が牧柵に近づいたとき、馬たちの方でも挨拶に来てくれた時の一枚。どの馬も人懐こく好奇心に溢れた様子でこちらを窺っていた。生業として飼われている馬なのだが、日頃からオーナー一家に大切に扱われているのだろう。

牧場には、母馬から離れたばかりの仔馬や若駒も飼われていた。若駒たちは、私たちが近づくと、怯えたように人から離れて、縋り合うように群がっていた。若駒同士の強固なコミュニティが形成されているのだ。

ロワールのホテルでは、柵越しに羊たちと親しんだ。次の写真は、横顔を見せているサフォーク種の羊。どこかキリストの面影のある思慮深そうな目で、起き出してきた私を見つめた。肉用種として広く飼育されている羊だが、実際にオーナー一家が肉用として飼っていたのかどうかは分からない。ペットとして、或いは、牧草地や空き地の除草を兼ねて飼っていたのかも知れない。オーナー夫婦は平日は地元の図書館などに勤めていて、週末になると、半裸のオーナーと子息が、普段は羊の水飲み場になっている池に来て、釣や水浴びを愉しんでいた。

ある朝、日が昇るとともに動き出した羊たちを撮った一枚。ルージュ・デュ・ルシヨンという品種の赤褐色の毛色の羊もいた。フランス原産の希少な羊の一つである。折から日照り続きで、からからに乾いた地面に草が辛うじて生えているような状態だったが、羊たちは特別の餌も与えられずに、地べたの草を食べて健気に暮らしていた。

ロワールのホテルへの道沿いに、チーズ生産農家が山羊の仔を飼育していた。今年生まれた仔山羊らしく、ほっそりした首を並べ、せっせと干草を食べていた。そこの売店で、私たちは山羊のチーズ(Fromage de chèvre)を複数買い、ホテルに帰って食べ比べをした。私が好んだのは比較的熟成が浅いもので、爽やかな酸味がして、雪のように口に溶けた。山羊のチーズは、牛乳のチーズよりも歴史が古いそうだ。

締め括りは猫。最後に泊まったフォンテーヌブローのホテルでは、オーナーが飼っている2匹の猫と親しんだ。玄関の戸を開けるとミャーミャー鳴きながら、室内に入ろうとするので、戸外に誘き出すのに苦労した。

ペットは、フランス語ではanimal de compagnie、直訳すると〈同行(同伴)の動物〉〈伴侶動物〉という意味になり、家族やパートナーとしてのニュアンスが含まれる言葉である。旅行中接したペットや牧場の馬たちの屈託ない仕草や伸びやかさは、私たちの長旅の疲れを癒してくれた。フランス人にとってペットなどの身近な生き物は、単なる愛玩動物ではなく家族の一員であり、生活を共にするパートナーなのだろう。


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