生を死を肯ひてこそ春の闇 直人
「春の闇」は月のない春の夜の暗さをいう。ただ暗いだけでなく、温かさや潤いを帯びたどこか神秘的で情緒的な闇である。
掲句には、「永別―二月二十五日 三句」との前書きがある。平成19年のこの日、作者の師飯田龍太は86歳で逝去した。この句は逝去に際しての追悼句である。生前の師との永きにわたる交誼とそれに纏わる数々の思い出、そして眼前の死という現実が、一時に作者に押し寄せたことは、想像に難くない。作者は、それら全てを肯いながら、「春の闇」に包まれている。〈千里より一里が遠き春の闇〉という龍太円熟期の句が、作者の脳裏にはあったのかも知れない。平成19年作。『風の空』所収。