蝶浮かれ出る流感の高熱に 高野ムツオ

「蝶」は彩り鮮やかな翅をもつ昆虫。陽春の日差しの中を花の蜜を求めてひらひらと舞う。単に「蝶」といえば春の季語だが、春に見かけるのは紋白蝶や紋黄蝶などで、小さく可憐なイメージがある。

掲句は、流感の高熱の最中に現れた蝶を詠む。流感はいわゆるインフルエンザのことで、現れた蝶は、高熱故に作者の脳裏に描き出された幻なのだ。この句から、私は日野草城の〈高熱の鶴青空に漂へり〉を思い浮かべた。草城の「鶴」もこの句の「蝶」も、高熱に浮かされた病中の心象であろう。作者は戸外の春の麗らかな日差しを想像しながら、病臥しているのだ。病苦も作句の契機にしてしまう作者の詩魂の逞しさを感じさせる一句。『俳壇』2026年4月号。


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