廣瀬直人の一句(10)

樹液滴り八方に霞立つ 直人

霞(かすみ)は春の山野に立ち込める水蒸気のこと。遠景がぼんやりと霞み、万物の姿がほのぼのと薄れて穏やかな春の景色となる。夜間の同じ現象が「朧」。

掲句は、剪定後の枝の切口から樹液の滴る情景を詠んだ作品。一時期葡萄栽培に勤しみ、葡萄畑の中に居を構える作者には、日常見慣れた光景だっただろうが、指を濡らす程の樹液がぽたぽたと落ちている様は、毎年新鮮な感銘を作者に与えていたのだと思う。切口から滴る樹液は近景、八方に立つ霞は遠景であり、一句は遠近の景物を織り込んで、甲府盆地の春の到来を実感させる。昭和47年作。『日の鳥』所収。

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