廣瀬直人の一句(8)

夕暮は雲に埋まり春祭 直人

「春祭」は春に行われる祭のことで、本来は農耕の開始に当たって、田の神を迎え、その年の豊かな収穫を祈る予祝(よしゅく)の祭であった。単に「祭」といえば夏の季語。

掲句は郷里の春祭を詠んだ作品。作者は「子供の頃から最も身近なのは甲斐一之宮という別称のある浅間神社の祭礼」だと、自句自解で記している。折から菜種梅雨の時節でもあり、祭の終わる頃は雲に覆われるという。「雲に埋まり」の措辞は祭そのものの描写ではないが、地域に根ざした春祭のもつ土臭さや温かみ、懐かしさを引き出している。「正月の」の句とともに、作者の初期の代表作と言っていいだろう。『帰路』所収。昭和41年作。

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