「蟲出づ」は「地虫穴を出づ」(春季)の傍題と考えていいだろう。春、土中に冬眠していた虫が穴から出てくる。虫と言っても、アリなどの昆虫に限らず、カエルやヘビなど冬の間土中に眠る様々な生き物が含まれる。「蟲」は「虫」の旧字体で、小さな生き物が集まっているイメージがある。
掲句は、春になって穴から地上に出てくる虫たちが、みな目を炯炯(けいけい)と眒(みひら)いていると詠む。炯炯は目などが鋭く光る様。地上に出てきたどの虫も、外敵をいち早く察知し、また、獲物を捕らえるために目を光らせているのだ。作者が想像した虫たちの姿だが、一読、さもありなんと思う。ひと度地上に出た虫たちには、弱肉強食の修羅の現実世界が待っているのだ。地上に現れた昆虫などの、黒々と漆びかりのする目が見えてくる。『俳壇』2026年3月号。