「案山子(かがし)」は田畑に立てられる人の形をした人形。鳥や獣から作物を守る役割があり、豊作を願う依代(よりしろ)や、畑のお守りのような存在としても親しまれてきた。収穫が終わり用済みになったものが「捨案山子(すてかがし)」。
掲句は谷戸奥の田圃の「捨案山子」を詠む。稲刈りが終わり、谷戸の田圃の畦などに、役割を終えた二、三の案山子が地面から引き抜かれて、凭れ合う形で置いてあるという。「凭れ合ふまま」の措辞に、作者の確かな写生の目を感じる。「谷戸(やと)」は丘陵地が浸食されてできた谷状の地形のこと。収穫を終えた谷戸奥の田圃の情景が見えてくる。『俳句』2025年11月号。