「鰯雲(いわしぐも)」は鰯の群れのように空に広がる雲のことで、魚の鱗にも似ていることから、「鱗雲(うろこぐも)」ともいう。台風や移動性低気圧が近づく秋によく見られ、代表的な秋の雲。
掲句は黒麺麭(くろぱん)に一片のチーズをのせた簡素な食事をしていると、窓に「鱗雲」がゆったりと流れているとの句意。「秋渇き(あきがわき)」という季語があるように、秋は過ごしやすい気候の中で、暑さのために減退した食欲が回復してくる季節。山海の味覚とはほど遠い質素な食事だが、大地の恵みを感じさせる香ばしい黒麺麭とチーズは昔から黄金の組み合わせだ。食欲の秋を迎えた喜びが率直に表れている。『俳句』2025年10月号。