つつがなき命はまろく滴れる 今瀬剛一

「滴り」は山中の岩の裂け目から、或いは蘚苔類を伝って、滴々と、又は細く糸のようにこぼれ落ちる水をいう。山道へ分け入り、疲れを覚える身に、滴りの一滴一滴は涼感を誘う。

掲句は円(つぶ)らかな「滴り」に健やかな命のかがやきを認めての作品。この句の背景には、自身が、或いは身近な人が健やかに齢を重ねていることに対する自祝の思いがあるのかも知れない。眼前の「滴り」は、命の光を放ちながら一滴また一滴とこぼれ落ちてゆく。『俳壇』2025年10月号。


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