「春夕(はるゆうべ)」は春の日の暮れる頃のこと。一日は終わりに近づいたが、陽の気配がまだうっすらと残っている。その薄明に少しずつ闇が入り交じってくる。
掲句は、「春夕」の伝統的な情緒に凭れることなく日と山の関係を端的に表現して、春の夕暮れ頃の薄明を読者に見せてくれる作品。夕日は既に山の向こうに沈んだが、まだ山の向こう側にとどまっている。山の端の残照が、山の向こう側の落日の存在をありありと感じさせるのだ。事実を直叙しただけの簡潔な描写が作品の力になっている。『俳句』2025年6月号。
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