花疲れして寿司ねたの光りもの

「花疲れ」は花見に出掛けたあとの疲れのこと。人出の多い中を
歩き回った疲れに加えて、花の美しさに酔いしれたあとの疲れが柔らかく五体を包む。その物憂さや気怠さには、花どきの浮き立つような気分も混じる。

掲句は出掛けた先で入った寿司店での作。桜の頃に限ったことではないが、寿司ねたになる魚やエビ、貝類は、どれもこれも美しい。中でも「光りもの」といわれるコハダやサバ、アジなどを板前が握っている間、それをカウンター席に座って眺めるのは愉しいひと時だ。その日は、一日の行楽にさすがに疲れて、板前の手元をぼんやり眺めていた。花どきの心地よい疲れが、私の心と身体を包んでいた。平成5年作。『河岸段丘』所収。

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