「桜蘂(さくらしべ)降る」は花が散り終わったあと、桜の蘂が降ること。花どきの華やぎが過ぎた後の、心がしんみりと落ち着くひと時である。
掲句は、「桜蘂」が戸外に静かに降る夜、ひとり検案書を記しているとの句意。検案書は死体検案書のことで、死因や死亡時刻などを医学的に証明するために医師が作成する書類。それを記すことは医師として重要な職務で私情の入り込む余地はないだろう。人の死を証する書類を記しながら、意識の端で、今頃は戸外で桜蘂が音もなく降っているだろうと思っているのだ。淡々とした表情の作品だが、人の死に関わる職業人としての厳粛な思いが伝わってくる。『俳句』2025年4月号。