龍天に登り机上に虫眼鏡 今瀬剛一

「龍(竜)天に登る」は中国の古代伝説に由来する季語。龍は想像上の動物で春分の頃に天に登り雲を起こし雨を降らせるとされる。空想の産物だが、鬱勃とした春の生気を感じさせる言葉。

掲句は、春分の頃天に登っていく龍と机上の虫眼鏡を取り合わせた作品。虫眼鏡は 小さい物体を拡大して見るために用いる拡大鏡のこと。老眼が進んで、ものを読んだり調べ物をするとき、虫眼鏡が手離せなくなった。机上に置いたままの虫眼鏡は、自らの老いの証でもある。だが、季節は着実に進み、春も半ばともなれば、淵に潜んでいた龍も天に登る頃。老いの意識と春の鬱勃たる生気の対照は、明暗半ばする春の気分そのものだ。『俳句』2025年4月号。


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