時といふ満ちくるものを紅椿

「椿」は常緑の肉厚の葉の中に真紅の花を咲かせる。花びらが散るのではなく、花ひとつが丸ごと落ちるので落椿といわれる。

掲句は眼前の咲き盛る椿を詠んだもの。百とも千ともつかない紅椿が辺りの静寂を破らぬまま咲き盛っていた。時間が来れば、自ずからぽたりぽたりと地に落ちていく椿。その椿の咲いている時間が、器に満ちる水のように、「満ちてくるもの」と感じられた。椿の命の充実感が一刻一刻を満たしていた。平成19年作。『春霙』所収。

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