「花」といえば桜のことだが、植物であることに重きがおかれる桜に対して、「花」は、心に映るその華やかなイメージに重心がある。桜の花が盛りを過ぎて散ることを「花散る」「散る桜」などという。
掲句は動物園の「雲豹(うんぴょう)」に「花」が散りかかる情景を詠んだ作品。豹に近い仲間であり、雲状の斑紋があることからこの名がある。東南アジアの森林に生息するというが、この句の「雲豹」は飼育されているもの。永い春の日中、飽食の「雲豹」が退屈の余り大きな口を開けて欠伸(あくび)したのだ。もうすっかり故郷の森で狩りをしていた頃の野性を忘れ去っているかに見える。折から咲き闌けた桜が、風が吹くたびにほろほろと散りかかる。『文藝春秋』2025年4月号。