熱燗や八方にある名無し山 石田郷子

「熱燗」は体を温めるために熱く燗をつけた酒のこと。沸いた鉄瓶の湯に徳利をつけるのが定番だが、最近は電子レンジなどで温めることも多い。

掲句の作者は女性だが、性別に関わりのない山住みの人の生活実感がよく表れている作品だ。「熱燗」は冬の夜の愉しみの一つ。既に夜闇に紛れつつある「八方の山」。どれもこれも名のある山ではない。その何の変哲もない雑木山といつしか長い年月をともに過ごしている。「名無し山」という飾らないぶっきらぼうな措辞と、「熱燗」という酒の最も素朴な飲み方が響き合い、作品に益荒男振り(ますらおぶり)の味わいをもたらしている。『俳句』2025年3月号。


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